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ユヌキャバンヌの「昨夜も映画を観てました」

「COLD WAR あの歌、2つの心」


原題:Zimna Wojna
パヴェウ・パヴリコフスキ監督
ポーランド・英・仏合作、2018年

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【最初の感想:味もそっけもない映画だな!】

そっけない映画だなー! というのが
観終えて、最初の感想だったかなあ。
「今、映画業界のえらい人にウケるのはこういう映画か」と。
白黒だ。精細ではあったものの、目に楽しい映像じゃなかった。
貧しい時代の物語のせいか、映し出されるものは
何もかも、質素だったしなあ。
あと、セリフや、説明的な描写が少なかった。
思えば、そもそも主要な登場人物が少なかった。
それに、その少ない登場人物が、
ほとんど笑顔を見せないのだった。

ラストシーンが映し出された時には、客席全体から
「???????????」
という雰囲気が立ちのぼった。
たぶん、みんなもっと、わかりやすくて強烈な
「感動作」を期待していたんだろう。それだけに
あのラストには肩透かしをくらったんだと思う。
隣の席の、二人連れの年配の女性客は小声で
「どういうことかしら」「ねえ・・・」
と、つぶやき合ってた。
まあ そりゃそうだよな(笑)・・・

 

【第二の感想:道ですれ違った、意味深なカップルみたい】

でも、今は、印象が違うなあ。
実はわたし、本作を観た週は、まさに映画漬け。
くる日も来る日も、いろんな映画を劇場で観まくってた。
それだけいっぱい映画を観て、
おもしろいものも多かったのに、
結局今になって、あの週に観た映画について考える時、
まっさきに思い浮かぶのは、本作だ。

なんか考えちゃう。あの恋人たちのことを。
例えば、夜に一人で近所を散歩してる時に、
いかにも「この二人、何かあったな」って感じを
醸し出してるカップルとすれ違ったら、どうか。
目が死んでる、泣いてる、着てるものが場違い、
歩く距離感が微妙、
・・・あるよねえ。そういう小さな、
でも明確な何かを、受け取ってしまうことが。
わたしがそんな二人を見たら、しばらく忘れない。
道ですれ違っただけだ。もう会うことはない。
事情なんか知らない。というか本当にあの二人の間に
何かあったのかどうかなんて、わからない。
でも、何だったのかなあって。
本作はそれと似た感じを、わたしによこしてきた。


【推測:ズーラがしたこと】

引き裂かれた恋人同士が
なぜ時を経て何度も、どこでも、再会できたのか。
パソコンも、スマートフォンもない時代に。
そこを考えたら、
ヒロインのズーラが、ただ恋人と一緒にいたいために
どんなに長い間、どれほどの犠牲を払い、
いかに深く傷ついたかがわかった。
すると、二人の最後の選択の意味が、理解できた。

わたしが推測するに、
ズーラは、好きでも何でもない、
カチマレクやミシェルといった男たちと寝ていた。
おそらく十何年もだ。
名もない少女の歌声の採録から、
混声合唱、そしてジャズ・・・と
アレンジを変えて再現される俗謡「2つの心」が
ズーラの闘い抜いた長い歳月を、表現していた。

彼女があの男たちと「関係を持った」ことは
作中のセリフからわかるので、確実だが、
「それが10年以上にもわたった」ことは、推測だ。
でも、そう考えないとおかしいと思う。
簡単に旅行ができず、連絡も取れない時代の物語だ。
庶民にとって、一度離れることは今生の別れと同義だ。
なのになぜ、ズーラとヴィクトルは、
何度となく引き裂かれても、そのたびにめぐり会えたか。

ヴィクトルは、二重間諜の疑いをかけられていた。
冷戦時代に、スパイ容疑で捕まった人間が、
あんな短期間で出所できるだろうか?
一介の歌手に過ぎないズーラが、
自力で、第一級の犯罪者の収容先を探し当てる・・・
こんなこと不可能じゃないのか?
にも関わらずズーラは、ヴィクトルの収容先に乗り込み
看守にワイロを渡し、恋人と二人きりで面会し、
ヴィクトルの耳元で「助け出すから」とささやき、
それを実現してのけた。

いずれも強力な後ろ盾があったからこそできたこと、と
考えなくちゃ、おかしい。

カチマレクは政府関係者であり、
ミシェルは音楽・芸術業界の有力者だ。
自分に夢中なのを逆手にとって彼らと寝ることで、
恋人ヴィクトルを守っていたのだ。
もちろん、逆に、
「俺のものになれ。さもないとお前の男を・・・」
と 恋人を人質に取られたのでもあったろうが。

ヴィクトルを収容所から救い出すために、
ズーラはカチマレクと結婚し、子までなした。
彼女は身も心もズタズタだったと思う。
なぜそこまでしたのか。
ヴィクトルを守りたかったからだ。
彼と一緒にいたかったからだ。

二人は、駆け落ちを計画したことがあった。
その夜、ズーラが待ち合わせの場所に来なかったので、
ヴィクトル一人で逃げるはめになった。
これが、二人がくっついたり離れたりを繰り返す、
長い長い年月の始まりとなった。
のちに再会した時、ヴィクトルはズーラに
なぜあの時来なかったのかと尋ねた。
「やっぱり無理だと思ったの。一人では」。
この答えは、よーく考えるとヘンだ。
「一人」じゃない。二人で逃げるはずだった。
でも、ズーラは「一人では無理」と言った。
どういうことか。
「駆け落ちに成功したとして、
 わたしたち二人の生活を
 保ち続けていくには、
 もちろんわたしが頑張らなくてはならないが、
 わたし一人では、やはり難しいと思った」
という意味ではなかったか。
当局に目を付けられているヴィクトルを守るには、
有力者の後ろ盾が必要だと考えた。
そのためには自分が体をはらなくちゃいけないと、
多分このときに腹を決めたんじゃないかなと思う。


【疑問:ヴィクトルは気付いていたのか】

ヴィクトルは、ズーラのしていることに
気付いていたのかなあ。
まさか、進んで、男たちにズーラを差し出していた
ということはないかな・・・
うーーーん・・・
ど、どうかなあ・・・。

恋仲になって間もない頃、
彼はズーラから打ち明けられた。
カチマレクがヴィクトルを疑っていて、
自分に探りを入れてくるので、
聞かれるままに身辺情報を密告していたと。
「しつこいの。言い寄ってくるのよ」。
ヴィクトルは、ズーラが自分のことを
カチマレクにタレこんでたと知って、怒ってた。
少なくともあの段階では、
ヴィクトルがズーラをカチマレクに売ってた
ってことは、なかったと思う。

音楽関係者のミシェルについてはどうか。
ミシェルにズーラを紹介するとき、ヴィクトルは
「(ミシェルは)スラヴ系の顔立ちの
 女性が好みだから、君を気に入るはず」
という意味の発言をしていた。
・・・でも、ミシェルと寝たことを
ズーラにほのめかされると、激怒していた。

もし、ズーラのしていることを知らなかったなら、
知った時に、止めようとしただろう。
もし、真実を薄々知りながら、
知らぬふりをしていたならば、
ズーラがあのようにほのめかしたところで、
怒れる分際じゃない。
ヴィクトルは何も知らなかったと考えるのが妥当か?
「もう俺とは別れて、君のような複雑な女に
 対応できる男を探せ」
そんなことを言うシーンまであった。
何を言ってやがる(笑)!!
ずるいよなあ、ヴィクトルは。

密告していたことをヴィクトルに激怒された時、
ズーラは目の前の大きな川に、突然飛び込んだ。
ゆるやかな流れに身をゆだねて歌う彼女は、さながら
ハムレット」の、狂えるオフェーリアだった。

完成したばかりのデビューレコードを
「僕たちの初めての子だよ」とヴィクトルから渡されて
明らかにズーラは傷付いていた。
こんなもの! と、即座にレコードを投げ捨てた。
「ミシェルってすごいわね。一晩で6回も・・・」
そんな風に語る彼女を、ヴィクトルは殴った。

ズーラがあれほど激しく疲弊し、
狂っていったことが理解できる。
ヴィクトルにいちいち言いたくない、
でも、ヴィクトルにだけはわかって欲しい。
愛する男との関係を保つため、
卑劣な男どもと、好きでもないのに寝るのだ。
何年も。最悪だ。
並みの心労じゃないと思うな。
彼女、鏡をのぞき込んで自分の顔を見つめて、
「大丈夫。(わたしは)彼が好き・・・」
と、つぶやいていたよ。
ヴィクトルへの愛だけを頼りに、
独りで闘うしかなかったんだろう。

ただ、ヴィクトルも最後の方ではさすがに、
状況を理解していたよな。
カチマレクとズーラの子に会った頃には、いくらなんでも。
ズーラと逢い続けるためには
確かにズーラに頑張ってもらうより他にないと思い
すべてを受け入れる(あきらめる)しかなかった。
そしてヴィクトルも、あれでズーラを深く愛していた。
でなけりゃズーラの最後の選択を、受け入れたはずもない。
それに、彼はズーラと離れると、
明らかに仕事が手に付かなかった。
彼女の激情家の面には手を焼いてたみたいだし、
別の相手と付き合ったこともあったようだけど、
生涯忘れえぬ女は、ズーラだけだったんだろう。 


【ラストシーン】

「向こうに行きましょう。景色が良いわよ」
ゆっくりと立ち上がる二人の姿をとらえて、
物語の幕は下りた。
心中を遂げたのかどうか。
具体的に描かれなかったので、わからない。
廃墟となった聖堂で、二人だけの結婚式を挙げた時、
何かの錠剤が、祭壇の上に並べられていたけど、
その数は素人目に見てもそれほど多くなかった。
「体重に合わせて」というセリフもあったから、
用量は適切だったのであり、
死ぬつもりにしても、それは服薬によってではなかったのかも。
確かなのは、二人が、
「景色が良い」場所/幸福になれる場所を求めて
「向こう」に立ち去った、ということだけだろう。

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お絵描き中。