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ユヌキャバンヌの「昨夜も映画を観てました」

『ジョジョ・ラビット』

原題:Jojo Rabbit
タイカ・ワイティティ監督
2019年、米国

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単純な反戦映画って感じじゃない。
権力や軍事力や暴力よりも強いものがこの世にはあると
言いたかったのではないかなと。
ジョジョの母が語った「愛こそ最強の力よ」がポイントだろう。
実際に、ナチス独裁政権という狂った状況のなかにあっても
至る所に、愛の花が咲くのが見られた。
相反するイデオロギーのはざまでジョジョが苦しんだのは、
ヒトラーも母もエルサも愛していたからだろう。
ラームは教え子の背中に爆弾を取り付けて敵前に送り出すが
子どもを18人産んだわ、とうそぶいてもいた。
クレンツェンドルフはナチスの大尉だが
側近の青年とひそかに思い合っているらしかった。
ナチス性的少数者も排除対象とした)
ジョジョの母が、守るべき者を二人も抱える身でありながら
あの活動に身を投じたのは、考え方はいろいろだろうが
息子に伝えたかったからでは。「愛こそ最強の力」と。
そのために命まで懸けることになったのは、戦争のせいなのだ。
でも、思うんだけれども、
人の愛はえてして、「差別」「ひいき」の類語に堕ちる。
愛する人のためなら、それ以外の人を殺すことさえあるから。
良心のすこやかさ、良心の声に耳を澄ます力、
人の愛にそれが備わった時、人の世に調和がもたらされるのだろう。
ものすごく難しいことみたいに思えるけど、本当にそうだろうか。
10歳のジョジョでも、心の声を最後まで正しく聞いていた。
まして大人が、やって良いこと悪いことも判らないのはクズ。
そんなことを悪趣味スレスレのユーモア爆弾に練り上げて
全力で投げつけてくる映画だった。
クレンツェンドルフの眼前に立つや、
彼の股間を蹴り上げ、横っ面を張り倒す
ママ・ラビットの伸びた背筋が美しい。