une-cabane

ユヌキャバンヌの「昨夜も映画を観てました」

「グッドライアー 偽りのゲーム」

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原題:The Good Liar
ビル・コンドン監督
2019年、米国

ヘレン・ミレンイアン・マッケランのお芝居を
2時間も観ていられて単純に楽しかった。
このくらいのお年頃の役者は好きだ。

さて、この映画は、という話なんだけど、
物語は良かったが、見せ方で失敗していたかも。
「騙し合いの物語」であることは最後まで伏せておいて、
気付く人は気付く、程度にしてくれた方が良かった。
「さて、あなたは見抜けますか?」くらいの。
2回観ずにはいられなくなるくらいの。
ストーリー展開が、鼻で笑ってしまうほどの親切設計。
主演のふたりも、騙し騙されの眼の演技が露骨すぎた。
こっちだってバカじゃないんだから、そこまでやらなくて良いよ。

ともかくはじめから、ロイがベティを騙すだけでなく
「両者の騙し合い」の物語だということが明示されるので、
さて、それではお互いにどうやって、アドバンテージを
取っていくのかな、という所が注目ポイントになったのだが、
・・・思えば冒頭のシーンからすでに、ロイ(イアン)には
負け風が吹きまくっていた。
ベティにボコボコにされる結末しか見えなかった。
ロイを見ていると、彼が詐欺師稼業を「楽しんでいる」のではなく
金に「執着」しているからこそ詐欺師をやらずにいられないのだ、
ということがわかり、しかも、その強い執着の理由も、わかってくる。
でも「それだとベティには絶対に勝てない」、ということだと思う。

ロイが本当に欲しいのは、金ではなく、愛なのだ。
だけど、愛したことも愛されたこともないので、
愛がどんなものかわからない。
いざ目の前に愛を差し出されて、これをあなたにあげると言われても、
彼にはとても信用できないのだろう。
でも、ロイの心には、孤独という巨大な穴があいている。
それを、愛の代わりに金で埋めようとした。
ロイの人生は、ただただ、それだけのものだったと解釈した。

ロイがベティに惹かれていたことは、観ていれば明白だった。
ベティを騙すのは良いが、生活できるように少しは金を残してやれ、
相棒にそう言われると、ロイはいやにイライラして、意地になった。
何としても全財産を奪う、と言ってゆずらない。
ベティへの愛に絶望していたからこそ、
余計にベティの金にこだわったのだろう。
聞かれてもいないのに彼はベティの悪口をいいつのる。
退屈な女だ、平凡だ、手取り足取り世話してやった。・・・
その言い草から、ベティに「おかん」的なものを
すかし見ていることが、感じられてならなかった。
歳を取っても結局は、ママのキスを待っているボクちゃんなのだ。
だが、彼が何十年もそこから成長せずグズグズやってきた間に、
ベティは不屈の意志で必死に生き、穏やかな暮らしを勝ち取った。
ベティは、強い、大人の女だ。
ボクちゃんが彼女と張り合った所で、勝てるはずもない。

はたして、悪かったのは戦争か。
戦争のせいでああなったみたいな描かれ方だったけど、
ロイはベティと出会った時、すでにダークサイドに堕ちていた。
戦争のせいどころか、むしろ彼は「戦争のおかげで」、
人生を一からやり直せる、というとらえ方で、
「あの一件」に便乗していた。しかもそこまでやってなお、
みずから暗黒の世界を選び取り、そこに棲み付いた。
言いたかないが、ロイって、元もと性格が暗いのでは。

若い頃のロイは結構良かったんだけどな。ただならぬ陰気さで。
あの感じで成長していたら、ベティと良い勝負ができたかも。
老年の彼も、サイコパス感を時々は見せてくれていたのだが。
でも長続きしない。地のボクちゃんがどうしても出てしまう。
歳だから、感情の栓のしまりがゆるいと言うか。

ロイはこのように人間的な欠点の多いキャラクターだが、
そんな彼にも、最後まで一緒にいてくれる友人がひとりいた。
ベティから全財産を奪うのはやめておけ、と忠告した人物だ。
でも、この相棒の友情を、ロイがかみしめる時はもう来ない。
そう思わせる結末になっていたのは寂しかった。
ロイは、ストローをくわえさせてもらっても、
口の端からダラダラと飲み物をこぼしてしまう、
まさしく「ボクちゃん」になってしまったのだ。

終盤に、秀逸なシーンがあった。
かわいい孫娘たちが、泉で水遊びをしている。
だが、その楽しそうな笑い声が、ベティの耳には不吉に響く。
心配そうに声を張り上げる。
「気を付けて! 思ったよりも深いわ」。
・・・とっくの昔にロイを許したと、ベティは語った。
恨みなどというものは超越してしまったの、と。
では彼女を突き動かした気持ちはいったい何だったのか。
名前が付けられない気持ちを抱くことも、人にはある。
気持ちの名前がわからないと、とても苦しいものだ。
ベティはそんな苦しみと戦い続けてきたんだろう。
のたうち回るような、心の奥底から発火するような、
烈しい感情と向き合ってきたんだろう。
「深淵を覗き込む時、深淵もまた、君を覗き込む」だ。

ベティは、苦難から学ぶ強さを持った人だった。
私がこんなにつらい目に遭ったのだから、
みんなも私と同じ目に遭えば良い! ではなく、
大切な人には私のような目には遭って欲しくない、と
考えることができる人、ということだと思う。

孫娘たちが遊んだ泉は、「深淵」のメタファじゃないかな。
愛しいあの子たちは、暗黒に足をからめとられることなく、
安楽な光の道を歩んでほしい、という
ベティの願いが現れた場面に思えた。

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お絵描き中。