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ユヌキャバンヌの「昨夜も映画を観てました」

「初恋」

 

英題:FIRST LOVE
三池崇史監督
2020年、日本

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【良作だった。】

イヤ~ わたし 
この映画のこと全っ然、嫌いじゃないわ(笑)

最近、超傑作ばっかり観ていてね。
アイリッシュマン』と言い『ミッドサマー』と言い。
こんな上質な映画ばっかり観ていたら、
頭がおかしくなるよ。感動し過ぎて。
そんなわけで ここはひとつ愛すべき地雷系映画を
2~3本も観てほっとしたいとか偉そうなこと考えたんだよね~
そのつもりで観たんだけど、『初恋』。
目論見は完全に外れた。

これ、すごく楽しい映画だったんじゃないかな?

 

【どう考えても大した話じゃない】

あれだ、一言で言うと、
大した話じゃないよね! この映画のストーリーって。
ボクサーの青年が、
ひょんなことで出会ったワケアリの女の子を助けるうちに、
どういうわけかヤクザと中国マフィアの抗争に巻き込まれ、
(まあ、そこにおクスリの密売とかもからんでて、と)
嵐のような一夜を生き抜くはめになる。
この青年、生後間もなく親に棄てられており、天涯孤独。
しかも実は重い病気が見つかって、余命いくばくもない。
寂しく生まれて寂しく死ぬのか、と絶望しかけていたが、
狂乱の夜を通して、彼の心の中に何かが芽生え始める・・・
いやほんとに、話としては、びっくりするほどどうでも良い。
言わば、使い古された要素のコラージュ脚本に過ぎず、
この映画を観ていても、登場人物たちがやることそれ自体には
はっきり言ってほとんど、興味が持てなかった。

何度も言うけど、大した話じゃないんだよね!
いや、決してケンカ売りたいわけじゃない。
むしろ、そこが良かった、と言いたいの。
言い換えれば、この映画は、等身大なのだ。
ストーリーも、映画としても、身の丈ちょうど。
見栄をはってなくて、好感が持てる。
大したことできてないくせに、やりました感を
臆面もなく出してくるなあ・・・と思った時に、
わたし、その映画が嫌いになっちゃうんだよな。
具体的なタイトルをここで挙げるのは、品がないので
やめとくが、実際あるよそういう作品はいくつも。
「何か鼻持ちならねえな。この映画」って。

三池崇史監督の作品には、割とこの
カッコつけない、いさぎよさを感じることが
多いな、と思うんだけど、どうだろう?
監督自身の姿勢が、そっち系なのかもね。
自分自身を過大評価していないと言うか。
できてないくせに、やってやりましたよ感を出さず、
でも、できることは精一杯やる、って感じか。
考えてみれば、かえって難しいことかもしれない。

 

【魅力あるキャラクター:レオ/窪田正孝

『初恋』はとにかく、
キャラクターの個性が際立っていた気がした!
役者さんたちが、きっちりと仕事をしてくれたことも
凡庸な物語を最後まで楽しく観られた一因だと思う。

主役のレオを演じたのは、窪田正孝
ちなみに巷では、ベッキーの振り切れた怪演が
とにかく突出して大好評らしい。
確かに、彼女もホントに良くやっていた。
けど、わたしは、窪田正孝にこそ賛辞を送りたい。
この役者さんの演技を初めてまともに観たけど、
レオの、死んだ魚みたいなどんよりとした眼が、
光を帯びて、きらきらしてくるプロセスを、
段階的に、巧みに演じ分けていたと思う。
騒がしいとかセクシーとか見た目で表現できるキャラなら、
演技経験が浅くても、まだ何とかやりようがありそうだ。
だが、内面が徐々に変化していく、レオのような役柄は、
本当に力のある役者でなければ務まらないのではないか。
エピローグの試合のシーンで、人が変わったように
全身で勝利の喜びを表現する所、素晴らしかった。

【魅力あるキャラクター:加瀬/染谷将太

あと、サイコヤクザ・加瀬役の、染谷将太
『WOOD JOB! 神去なあなあ日常』(2014年)
パンク侍、斬られて候』(2018年)の時も思ったけど
何か、まだ本気出してなさそうに見える。恐ろしい。
加瀬は、自分が所属している組が、いろんな意味で
斜陽の時を迎えつつあることを察知している。
ここは、もらうものもらって、どうにかうまくトンズラしたい。
陰でコソコソ画策しているが組にはそれを隠しておきたくて、
対立している中国マフィアに自分のヘマをなすりつけようと、
聞こえよがしに「中華野郎かーーー!!!!」と叫ぶ
わざとらしい演技がすごくうまかった。笑った。

 

【魅力あるキャラクター:権藤/内野聖陽

組のナンバー2、権藤を演じた内野聖陽も、
いつもながらの名演。すごくカッコイイ。
設定としては多分、彼の亡き父が前組長だったんだろう。
父は、おそらく権藤が服役していた間に死んだ。
(物語の冒頭で、権藤が刑務所を出所し、
 まず父の墓参りに行きたい、と言う場面があった)
そのため、権藤は跡目を継ぐことができなかった。
現組長は別の人物が務め、「代行」と呼ばれている。
「代行」が組長になったことそれ自体は、
権藤も服役中から把握していて、表向き遺恨はないようだ。
「代行」が跡を継ぐことは、父の遺志でもあったのだろう。
だが「代行」の言うことが今一つ権藤に響かない様子から、
後継問題が、お互いの間のわだかまりになっていることは
否めないだろう。
また、組員たちも内心では権藤に組長になって欲しいと
と思っていることが、うかがえる。
だからこそ、権藤が「代行」の意思に反して、
中国マフィアへの宣戦の号令をかけた時、
組員どもはみんな、嬉々として権藤に従ったのだ。
・・・要するに、あのヤクザたちはヤクザたちで、
内輪でけっこういろいろある、ということだ。
もし、権藤と「代行」の関係にちっとも問題がなく、
「代行」の言い付け通り、権藤が自重していたら、
中国マフィアとの正面衝突も回避されたはずなので、
この物語自体が、生まれなかったことになる。
まあ、どうでも良いと言えばどうでも良いのだが、
作中、具体的に語られなかった部分なので、想像してみた。
この通りの設定だったとしても、語らなかったのは正解だ。
いちいちこんなの説明するのに時間を使っていたら
話がムダに複雑になり、いったい何が言いたい映画なのか、
いよいよ全然わからない感じになっていたと思う。

【アラも多いが、なんだか観ちゃう】

この映画ときたら、
観てるそばから何それ!!!! って思った所も
くさるほどあった。それは確かだ。
先に言った通り、ストーリーなんかヨレヨレだし、
行われていることに興味が持てない、という点も問題だ。
終盤とか、スタントが雇えなかったのか知らないが、
アニメ演出が唐突にぶちこまれたり、意味わからない(笑)
(そもそもあの場面、警察は、駐車場ノーマークか・・・)
だが、三池監督の映画は大抵、多少ポンコツだと思う。
なのに観始めると、観続けることができてしまうのだ。
レオの終盤のバトルシーンを、もっと引きの映像で
しっかり観たかった、とかいろいろあるけど・・・。
でもバイオレンス描写が、ちゃんとそこそこ痛そうで、
そういう所はけっこう好きだったな。
まあ、死ぬほど殴られたり斬られたりしていた割に
権藤もレオも、回復早すぎないかなと思ったけど。
レオなんか、顔、まったく腫れていなかったし・・・
あと、どうしてもいっぺんこれだけは言っておきたいのだが

パトカーの数!!!!

【モニカを見届ける】

騒動が収束したあと、モニカが歩み始めた道を、
眼をそらすことなく描いていたのは、とても良かった。
この手の映画で、ああいう所まではっきり描いたものは、
わたしが観てきた限りではあまりなかったような気がする。
「そうだ、確かに彼女は、こうしなくちゃいけない」
そう思って、観ているこっちがちょっとドキリとした。

 

【ラストシーンが秀逸】

静かで、美しいラストシーンだった。
初めて観た映画にも関わらず、
あのふたりの後ろ姿をみた時、
これで終幕だ、これ以外の終り方はない、とはっきりわかった。
納得のエンディングだったと思う。

 

【レオの余命の問題をめぐって】

レオの余命をめぐる、あのエピソードについてだが・・・
つまり、MRI画像の取り違えだったことが発覚して、
実はまったくの健康体だったとわかる、という。
むちゃくちゃな。
そんなバカな話あるか! 普通に余命わずかって
設定のまま駆け抜けときゃ良いだろ、という
意見もまあ、あるのかなと思う。
その方が哀愁が漂って、クールだし。
でも、どうだろうな。ウーーン。・・・
思いは人それぞれにあるだろうと思うけど、
わたしは、あれで良かったのかなと思う。
どうせ死ぬんだからもう全部どうでも良いと思ってた、
だから銃撃されても、ヤクザの殺し合いの現場にいても、
なんとか立っていられた、
でも、どうやら自分は健康らしいとわかった、
そうとわかったら急に今の状況が怖くてたまらなくなる、
銃を握りしめた手が、今さらブルブル震え出す、
でも、じゃあ俺はここからどうする?
・・・激しく揺れ動き、選択を迫られるレオの心境が
鮮やか過ぎるほど鮮やかに伝わった。
これは、実は健康です! というマンガみたいな展開が
あってこその効果ではないだろうか。そしてレオは、
「やっぱり俺帰ります、あとはひとりで頑張って」
なんて言って、モニカを置いて行く男じゃなかった。
自分の意志で、あの場にふみとどまることを選び、
再び勇気を奮い起こす所は、最高にクールだった。

 

【『初恋』の意味を考えてみる】

そこへきて、この映画のタイトル『初恋』について、
考えてみるわけなんだけどねえ。
この物語って、
「レオが初めて、自分を大切にするようになるまで」を
見守ったものだったんじゃないかな、って思った。
彼はモニカに恋をしたみたいだったから、
その「初恋」がもちろん第一義なんだろうけど。
レオが天涯孤独であることを、思い出してみて欲しい。
生まれてこのかた慢性的に自暴自棄、安定的に絶望していて、
時間を浪費するだけの日々だった。
自分のことがちっとも大切じゃない人生だったのだ。
それが不可逆的な死をつきつけられ、さらに恋を知り、
そのうえで命を再び与えられるという
めちゃくちゃな体験をすることによって、
ようやく「命が惜しい」ということを、つまり
自分の人生がどんなに大切かを、知ったのだ。

『初恋』が、
レオが自分自身の人生を愛するようになるまでを
描く物語だったとしたならば、
彼に刹那の馬鹿力で暴れさせるだけではダメだ。
命をその腕に確実に抱かせたうえで、彼自身の心で、
これからどうするかを決めさせる必要があった。
わたしはそう思う。

何といっても、この映画を観る人は、
みんなレオのことが大好きになるはずなのだ。
誰も、彼が死ぬことなんか望まないだろう。
たとえレオの愛したモニカが生き延びて幸せになっても、
かんじんのレオが近い将来死ぬという設定が残った時、
わたしたちはこの映画を、気分良くおうちに持ち帰れるかな。
確かに世の中には、酷な結末で締めくくることによって
観る人の心にいつまでも重いものを残す映画がたくさんある。
でも、『初恋』がそれである必要は、必ずしもないのでは。
そんな甘っちょろい弁護をしてみたりする。

だが、まあ、レオが健康であることはわかったわけだが
レオの代わりに天国から一転地獄に叩き落とされた病人が、
確実にひとり、いるわけだ。
MRI画像の「取り違え」だったんだから。
そこを考えると、ちょっと気が重いよね。
画像の読み間違えとか、撮影時の不具合とかで、
病巣なんかどこにもなくて、
病人なんてひとりもいない、というオチだったら
より一層気分が良かったんだけど
そりゃ、さすがにやり過ぎか・・・

 

【血みどろムービーだけど一度観てみて!】

このところ邦画をあんまり観ていないけど、
たまに観るとこういう良作だったりするので油断できない。
『初恋』は窪田正孝を筆頭に役者さんたちの演技が光って
すごく楽しむことができた作品だった。
流血しまくり・手足とかもげる系のバイオレンス描写が
大丈夫であれば、ぜひどなたも観てみていただきたい。

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