une-cabane

ユヌキャバンヌの「昨夜も映画を観てました」

「スキャンダル」

原題:Bombshell
ジェイ・ローチ監督
2019年、米国

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主要3キャラがみんな超一流テレビ局の花形キャスターで
ひとり残らず美人さんで、しかも全員白人女性。
実話ベースの物語とはいえ、攻めてるな。
完全に「勝ち組」のフォーメーションだ。これだと、
「確かに彼女たちはセクハラ被害者なんだろうけど、
 でも 結局恵まれてる人たちの話なんでしょ・・・
 最後にはたんまりもらったんだから良いでしょ・・・」
と観る人に思わせてしまい、
共感を呼びにくい、とは考えなかったのか。
もちろん考えたんだろうな・・・。
それでも、事実の形をできるだけ残して
映画を作ることを選んだんだな。
これはつまり、キャリアとか、ルックスとか
勝ち組負け組とか全然関係ない、ということだと思った。
女性たちは、いつでも、誰でも、どんな地位にいても、
ねじふせられてしまうことがある。
口惜しさと恥ずかしさで、ひとりで泣く夜がある。
そのことをこの映画は言いたいんじゃないかな。

FOX社のCEOロジャー・エイルズは、
こんな化石みたいな男、いったいどこに埋まってたの、ってくらい
絵に描いたような、天然系セクハラ差別じいさんだ。
「女たちに十分な機会を与えて稼がせてやったじゃないか」
「何から何まで面倒を見たのだから多少の見返りは当然」
ロジャーは、こういったものの言い方を、実に頻繁にする。
「俺が~~してやった」。
そうしてやらないとどうせ女は、自分では何もできない。
本当にそう考えていることを、隠そうともしない。
しかも全然、悪気がない。

気持ち悪い男が支配する、気持ち悪い会社の風土に、
でも結局は、女性たちも染まっている。
彼女たちは、もしも誰かに
「イヤな目に遭っているのに、どうして辞めないの?」
と、聞かれたら、こんな風に答えるんだろう。
「生活していかなくちゃならないから」
「イヤなことも多いけど、キャリアアップできる環境だから」
あくまで自分の考えでそこにいるのだと。
でも、自分の考えを貫いているようで本当は
重要なことを考えることが、もはや不可能な状態に
なってしまっているのではないか。
重要なこととは、多分
「誰かの意思を忖度して自分を押し殺していないか」
「貫いているその部分は本当にそんなにも大事なものか」
そういうことだ。

このレビューを書いているわたしは、女性だ。
振り返ってみると、
「女性であることを理由に抑圧されている」と感じたことは
どうも今まで、あまりなかった気がしている。
「女だから我慢しなさい」的なことを言われたことは、
確か、なかった。
でも、それは本当に、たまたま自分はなかったというだけで、
実際は、すぐそばに常にあったのだ。それに、今もあるのだ。
ただ、抑圧を当然のこととして(場合によっては積極的に)
受け入れる女性もいるのだろう。
何ごとも、黙って言われた通りにしている分にはラクだから。
わたしにはわたしの意思がある! 上から抑えつけないで!
そう声をあげるのは、ものすごく大変なことだ。
それは、人によっては、
女はあれしろ、女はこれはするな、
女はこうであるべき、女のお前にはできない、
・・・そう言われるのをガマンすることよりも、大変だ。
とても難しい問題だよな。
女であることを理由に抑圧されているとは思わない、と
つい今しがたわたしは述べたけど、気付いていないだけかも。
何百年も何千年も前から、社会構造の基礎の部分に、
性差別のコードが組み込まれているとしたらどうだろう。
生まれた時からずっとその社会で生きてきたために、
抑圧されていることに気付いていないだけなのでは。

ロジャー以外にも、セクハラ思考・女性蔑視の男どもは
作中にたくさんいたよな~。
ニュース映像の中に登場するドナルド・トランプは言うに及ばず、
「セクハラされるってことは君がそれだけセクシーってことだよ」
とか言うメーガンの同僚とか。
う、最悪だ・・・

3人の女性が力を合わせてセクハラと闘う、といったような
物語を想像していたんだけど、
『スキャンダル』はそういう感じではなかった。
レッチェン、メーガン、ケイラの3人には、
それぞれに異なる立場というものがあった。
セクハラ提訴騒動に関して、この3人が連携する局面は
ほとんどなかった。
同じ会社の現職であるメーガンとケイラでさえ、
直接言葉を交わしたのは、物語も中盤に入ってからだ。

3人の立場と関係性を説明しておくと、
彼女たちはみんなFOXニュースのアナウンサーだが、
レッチェンは退職、メーガンとケイラの2人が現職だ。
レッチェンはFOXニュースの名物キャスターだった。
在職当時、ロジャーのセクハラを受けた彼女は
退職と同時に、セクハラ被害でロジャーを提訴する。
「自分と同じ目に遭った女性社員は他にもいるはず。
 彼女たちが名乗り出て、訴えを補強してくれる」
レッチェンはそう信じていた。
だが、ことはそううまく運ばない。
現職のキャスターであるメーガンは、グレッチェンが
CEOを訴えたことを知って、内心激しく動揺する。
実は彼女も、かつてロジャーにセクハラをされたのだ。
メーガンはFOXの看板として社内で一目置かれている。
CEOが提訴されたというこの問題について、
彼女が何か意見を述べるのを、社内の誰もが待っている。
メーガンも、それをよくわかっている。
だが、自分も被害に遭ったということがもし知られたら、
「セクハラに遭ったメーガン」と思われるならまだしも
敵を作ることも少なくない彼女の場合
枕営業でのしあがった」的なイメージが付きかねず
キャリア形成にも影響するだろう。
どう動くべきか決めかねて、彼女は苦悩することになる。
ケイラは若いキャスターで、一時はグレッチェンの部下だった。
だが、大きな仕事を任せてもらえないことにしびれを切らし、
レッチェンと袂を分かって独自に出世の機会を探り始める。
そんななか、ロジャーCEOと直接話す機会を得ることに成功。
自分を売り込もう、と躍起になるケイラだが。
・・・

こうした関係性を理解して、物語を観ていくと、
エレベーター内で3人が乗り合わせるショットは示唆的だ。
同じひとつの闘いに飛びこんでいく3人なのだが、
手に手を取って、というわけではない微妙な感じ。
牽制し合っているような雰囲気さえあった。
これゆえに、セクハラ問題は根絶しにくいのでは。
被害者同士であっても、協力し合うことが難しいのだ。
それでも、誰かがやらなくちゃ、声を上げなくちゃ、
そうしないと社会は変わっていかない。
レッチェンの決意に応えるように、
やがて女性たちが勇気を奮い起こしていく。
カッコよかったと思う。

ケイラは、なかなかの野心家だけど、
あまりにも純で、何ひとつわかってやしないお嬢さんだった。
レッチェンが制止するのも聞かずロジャーの周辺をウロチョロし、
出世の糸口をつかみ取ろうと、必死だ。
きっと今まで、どんな夢も、頑張ることで叶えてきたのだ。
頑張ることは尊いことで、声を上げれば必ず聞き届けられて、
聞いてくれる人は当然「ちゃんとした」人だと、信じている。
レッチェンは、若いケイラのためを思って止めたのだが、
ケイラには「私を妬んで、邪魔しようとしている」
と言った風にしか、思えなかったのだろう。
結果、ケイラは考え得る最悪の形で、会社の裏の顔を知る。
あまりにまっすぐで正直すぎて、彼女が気の毒になった。
「(CEOのセクハラに多くの女性社員が悩んでいることを)
 知っていたのに、声を上げてくれなかった。あなたは
 メーガン・ケリーなのに! 権力を持っているのに!」
そう言って、ケイラはメーガンを責めた。
メーガンの立場も、ケイラの気持ちもよくわかるので、
観ていて胸が苦しくなるシーンだった。

機を見るに敏で、上昇志向が強いメーガンは、
他人を押しのけたり、自己保身に走ったり、
けっこう、やることやっている。
同僚女性たちを守るために恐れることなく戦う・・・的な
わかりやすい英雄としては造型されていない。
「セクハラは事実だけれど、一方で、
 能力を正当に評価し起用してくれた
 ロジャーに感謝しているし、
 彼のそういう所が好きでもある」
そんな風に語る場面もあった。
気持ちが非常に良くわかる。
案外そういうものだ。
また、ロジャーも、家庭にあっては良き夫だった。
ロジャーとその妻の夫婦仲は、円満そのものだ。
妻は、セクハラの確たる証拠の存在を知るまで、
夫の潔白を固く信じていた様子だった。

実際的には、ハラスメントというものは、
どちらがどうとも判定しにくい背景のうちに、
日常のできごとの、自然な流れのなかで、
ウスボンヤリと発生するものなのだ。
気のせいだったような感じもするから、
傷付いた気持ちごと、なかったことにしてしまう。
それだからこそケイラのように、メーガンのように、
被害に遭った人は、自分自身を責めるのだ。
「私はいったいどの段階で失敗したのだろうか」
「なぜあんな状況になることを許してしまったのだろうか」
「私にも悪い所があった」
「あの言葉で勘違いさせてしまったのかも」
「あんなスカートをはいていたからいけなかった」
・・・

ケイラとメーガンが、
ロジャーと寝たのか、それだけは許さなかったのか、で
一瞬烈しくぶつかり合うシーンは痛ましい。
メーガンは、断固拒絶したことを誇りとしている。
自分がそれでもここまでのし上がれたのは努力の賜物、と。
でも、ケイラは、ロジャーに逆らえなかったのだ。
同僚に真実を打ち明けた彼女は、こらえきれず
「私、すごく不潔・・・」と涙する。
「あなたは不潔なんかじゃない、何も悪くない」
と優しくなぐさめる同僚の声に泣かされた。

騒動が起こってから3年と、まだ日が浅いのに
その実在の事件と、存命の人物たちをベースに
これほど真に迫るドラマを作ってきたのは勇敢だ。
最近のハリウッド映画は過去作品のリブートや
アメコミの実写映画化ばかりで、興味がないとつまらないけど、
そのハリウッドが、なんだか本気を出してきた感じがした。
こういう社会派の映画も、どんどん作られていって良いと思う。

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お絵描き中。