une-cabane

ユヌキャバンヌの「昨夜も映画を観てました」

『いつかはマイ・ベイビー』

原題:Always Be My Maybe
ナナッチカ・カーン監督
米国
2019年5月31日~ Netflix独占配信中

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ご時世がご時世だから気分が暗くなりやすいので
明るい気持ちになりたい気がして、観てみた。

いやあ、どうなんですかねこれは。
わたしは全然ハマらなかったけどねえ(笑)!
物語の中で起こることのすべてに、
ほとんど興味関心が湧かなかった(笑)
でも世評はとっても良いみたい。

観ていて、十分明るい気持ちにはしてもらったし、
パソコンで何か別の作業をしながら、
小さなウィンドウで流しておく分には
ちっとも悪くない映画だと思う。

マーカスがヒロインにそこまで魅かれる
理由が良くわからなかった。
(恋愛なんて人それぞれなので、外野が
 この人のどこが良いの? とか言うのは
 野暮ではあるのだが・・・)

また、彼が今まで人生を一歩踏み出せないでいた所を
良し! 今こそその時だ! と立ち上がった動機も
ハッキリしなくて、いまいち共感できず。

「君のバッグを持たせてくれ!」というセリフも
ちょっと女性に都合の良い男すぎないか、と思った(笑)

だが、ティーンの時に乗っていた車を
十数年だか経ってボロボロになってもまだ使ってたり
幼い頃おそろいで買ったキーホルダーを
未だに持っていたり・・・という
マーカスの異常な物持ちの良さは、
「過去に囚われた男」を表現するエピソードなのだろうと
それくらいは理解できた。

また、これはただの印象なんだけど、
マーカスが人生のコマを前に進めあぐねていたことに、
はっきりした理由なんて特にないのかもしれない。
「なぜ?」とあえて聞けば、彼は多分もっともらしく
説明してくれるんだろうけど、その場しのぎに過ぎず、
「なぜって聞かれても困る」というのが正直な所では。
母親を亡くしたことも、そんなには関係ないと思う。
少なくとも関係があるかのようには描かれていなかった。

ヒロインのサシャの方も、
人物や人生の背景の描写が弱い、と感じたことは
やはり同様だった。
両親と疎遠な理由が、何よりも一番謎だ(笑)
「わたしに両親はいない」とまで言うほど・・・。
疎遠という設定じゃなくても別に良かったと思う(笑)

婚約者との結婚がダメになるシーンで、サシャが、
「あなたのせいで出産に最適の時期を棒に振った」
的なことを叫ぶ。これを聞いた時は、
「あ、そうなの!? そういうこと考えてたの?!」
と、観てるこっちがビックリした。
この段階までは彼女はそんなこと匂わせもしてなかった。
なんならサシャも、仕事人間でナルシストの婚約者同様、
ビジネス上の打算で相手を選んだのかと思ってた。
そういう風にしか見えなかったのだ。
だからパートナーに結婚を延期し別居する、と言われて
サシャがあれほどまでに怒ったのが意外であったし、
まして妊娠を希望していたとは! と驚愕した。
婚約者に対してはいくら本心を隠してても良いけど、
鑑賞者にだけは事前に教えといてくれや(笑)

サシャがシェフの道を歩んだことのきっかけには、
隣のマーカス一家にしょっちゅうご飯をごちそうになっていて
マーカスの母に料理の手ほどきを受けたことが大きかったと
理解しておけば、まあ間違いはないのだろう。
だが、それは「そんな感じで理解しておいてあげます」と、
観てるこっちが精一杯、気を遣った結果の解釈であり、
「そうだったとしか考えられない」というほど強く
設定を印象付ける描写は全然なかった(笑)
マーカスの母との、ある思い出が、あとで活きる伏線だったと
映画を最後まで観た時に、初めてわかった。
だがこれも、伏線が伏線たりえていないもんだから、
「はあ、そうですか~」って感じで終わってしまった。
悪くない終わり方だったとは思うが。

だが好ましい所や、ちょっと新鮮だなと感じる所も、
たくさん見付けられた映画ではあった。
例えば、マーカスは韓国系アメリカ人で、
サシャは(多分)中国系アメリカ人だ。
こうした属性(言ってしまえばこうした人種)のキャラは
ちょっと前の恋愛映画では、
例えば「ヒロインの親友」とかいったような、
サブキャラにすぎなかったと思う。
それがこの映画では、れっきとした主役をはっている。
また、社会的地位も収入も、上なのは明らかにサシャで、
マーカスの方はそうじゃない・・・、という設定も
ちょっと変わったことやっているな、って印象だ。
マーカスもサシャも、お世辞にも美男美女とは言えない所も。

サシャの一番の親友で有能なアシスタントでもある
ヴェロニカが出産したので、お見舞いに行くシーンがある。
そこで、ヴェロニカのパートナーが女性であることが
非常にさりげなく表現されていて、うまい! の一言。
正直に言うと映画を観た時にはこれはわからなかった。
今この記事を書いている途中で、ハッと気付いた。
あれはスゴく、スマートで良かったんじゃないかな。

あと、キアヌ・リーブスが素晴らしかった(笑)
ああいう役柄で、本人役で出てくれる所が
キアヌ・リーブスの、彼らしい所なのだろう。
とても楽しそうに役を演じていて、微笑ましい限りだった。

マーカスとサシャのようなデコボコのカップルだと、
結ばれるまでよりも、そのあとの方が、
数億倍もいろんな困難に見舞われると思う。
続編とかで、二人のその後を描くのもアリではないか。
テレビドラマシリーズにしちゃうと間が持たなさそうだが、
サクッと2時間ならそれなりに楽しい映画になる気がする。

それにしても、
つい先ほど述べたことに関係するのだが、
旧来のハリウッドのテレビドラマや映画だったら
主人公にはならなかったであろうタイプのキャラクターが、
この『いつかはマイ・ベイビー』では主役をはっていた。
これはNetflixが新たに開きつつある扉、なのだろうか。
それとも、単に配給会社を経由する関係で
日本にあまり入ってきにくいというだけで
もともとこのくらいの感じの作品はたくさんあり、
Netflixを通すとこうして触れることができる、のだろうか。

この世にはいろんな人がいて、いろんな人間関係があるから、
それを物語にする以上、いろんな物語が生まれて当然だと思う。
人の多様性を積極的に取り扱っていく姿勢が
Netflixのポテンシャルなのだとすれば、もちろん応援したい。