une-cabane

ユヌキャバンヌの「昨夜も映画を観てました」

『スノーピアサー』

 


原題:설국열차
英題:Snowpiercer
ポン・ジュノ監督
2013年、韓国

f:id:york8188:20200621002750j:plain

www.youtube.com

近未来、地球温暖化問題への抜本的な対策として
化学薬品「CW-7」が散布された結果、
世界は、氷河期のような気候に逆戻りした。
生き残ったわずかな人類は、
走り続ける列車の中で命をつないでいる。
車内は、前方車両の富裕層がすべてを支配し、
最後尾の貧困層は差別され、屈辱に耐えている状況。
最後尾グループのカーティス(クリス・エヴァンス)は
長年あたためてきた反乱の計画を、ついに実行に移す。
先頭車両まで押し進み、支配者層から車内の主導権を
奪取しようとするのだが。
・・・

ポン・ジュノ映画って、
自分の心の中の非常にイケナイ部分を、
絶妙にコチョコチョされる感じというか・・・
ブラックユーモアのセンスにも魅かれるし、
説明しにくいが割と好きだなわたしは。

移動し続ける密室空間内で起こる反乱劇という括りでは
小林多喜二の小説『蟹工船』が真っ先に連想されるが、
あの映画版の『蟹工船』(2009年)、ヒドかったな~。
ケンカ売ってんのかってくらい決定的な駄作だった。
あれと比べると『スノーピアサー』ははるかに良い。
蟹工船』とは雲泥どころか神とウンコぐらいの差だ。

メイソン総理役のティルダ・スウィントン
役作りが完璧すぎて、彼女だとなかなか気付けなかった。
「小学校」車両の、女教師を演じた女優さんも良い。
恍惚の表情で白目むいてオルガン弾いてて笑った。

 

【ツッコミどころもそれなりに】

冷静に考えるとおかしい所もなくはない。
例えば
カーティスの反乱のキーパーソンは、
列車のセキュリティシステムを構築した
ミンスソン・ガンホ)だ。
反乱軍は、彼に各車両の扉のロックを
解除してもらうことによって前進する。
だけどこのミンスが大したことやってない(笑)
ロック解除と言っても、割と素人みたいな手段。
「配線をショートさせる」みたいな。
扉を蹴破っちゃった方が早くないか。

あと、
列車も線路も頑丈にもほどがある。
特に線路の方は少なくとも17年間メンテナンスなし
ということになるが、それで良く走り続けられるな。
実際、軽い地盤崩落とかで線路がつぶれてる所があり、
ムリヤリ走り抜けて、難を逃れたりしてた。
来年また同じ所を通るのに、どうするんだろ。

とか 他にもいろいろ。 

 

【疑問 1:CW-7論争と列車敷設計画】

疑問としては、
地球の気温を最適化するはずだった化学薬品の
使用の是非をめぐる議論は、7年続いたそうだ。
列車の敷設計画と、この論争、
どっちが先に始まったんだろう。
「小学校」の先生によれば、
列車の開発責任者ウィルフォードは
「CW-7が地球を凍らせると『知っていた』」。
いや、「知っていた」って何だよ(笑)
こんなすごい列車作っちゃう大企業のトップが
地球が氷河期に逆戻りすると「知っていた」? 
それなら列車なんかよりも、
温暖化を阻止する研究に投資すれば良かったのに。
・・・ってムリか・・・
三度の飯より列車、それがウィルフォードだもんな。 

 

【疑問 2:エドガーの『肉の記憶』】

良く考えると怖いな! と思ったのが
カーティスの弟分エドガーの「肉」の記憶だ。
「肉の味って覚えてる? 俺はもう思い出せない」。
列車が「走るシェルター」となった17年前の時点で、
エドガーは「赤ん坊」だった。
カーティスの回想によれば、
当時、列車の最後尾には肉はおろか水の配給もなく、
しばらくしてやっと配られるようになった食料は、
プロテインブロックなる、ようかんみたいな代物。
最後尾車両の人びとは以来17年、食べ物と言えば
プロテインブロックしか口に入れてないようなのだ。
でも肉の味を「思い出せない」という口ぶりからは
肉を食べた過去を、データとしては認識している、
という感じを受けないだろうか。
味は忘れたが食べたこと自体はあると知っている。
そんな感じ。
赤ん坊だったのに? 具体的に、何歳? いつ?
17年本当に毎日「ようかん」ではなくて、
何かの記念日とかには、焼き肉のカケラくらい
ありつけるのか? 
それならそれで良いが。
最悪の場合、本当に17年間ブロックだけの場合、
エドガーの肉の記憶」問題は、
重大な話につながっていくと思う。

最後に肉を食べた時、エドガーは何歳だったのか。
その時、いったい何の肉を食べたのか。
事情しだいでは、
・・・物語の核心の部分に触れてしまうから
あまり詳しくは書かないのだが・・・、
罪の意識に苦しんできたのはカーティス一人では
なかったのかも、ということになるよ。

 

【納得の結末:贖罪と雪】

ラスト、カーティスは、
ああなって良かったんじゃないかなと。
彼、そんなに強い人ではないようだったので。
罪滅ぼしをしたければ機会はあっただろうが、
どんなに頑張ったとしても、彼の心の傷が、
本当に癒える日は、来なかっただろうと思う。
背負いきれないことをやってしまったのだ。
一時の恐怖に駆られて。
背負いきれなくなるとは知らずに。

カーティスのためを思うとこれ以上は酷、と感じた。
ミンスは、外界が徐々に暖かくなってきていることに
希望を見出していたが、
カーティスは、ミンスとは事情が違う。
雪解けの時を待ちなさい、なんて、酷だ。
いつか外に出られるかも、なんて
カーティスにしてみれば最悪の「可能性」だ。
列車の中にこもって死ぬまで暮らすなんて、
異常事態以外のなにものでもないが、
カーティスの立場としては、異常事態なればこそ、
まだ何とか免罪されている気がするのだろう。
でも、外の世界に戻れてしまったらどうか。
自分のしたことと改めて向き合わざるを得ない。

雪はきれいなものも汚いものも
真っ白に覆い隠してくれる。
その雪がとけることは、
眼を背けていたかった自分の穢れを、
ハッキリと突きつけられることに他ならないだろう。
カーティスにそれは耐え切れないと思う。
彼は列車の中で、もう十分すぎるほど
闘ったんじゃないかな。