une-cabane

ユヌキャバンヌの「昨夜も映画を観てました」

『セクレタリアト 奇跡のサラブレッド』

 

原題:Secretariat
ランダル・ウォレス 監督
シェルドン・ターナー、マイク・リッチ 脚本
2010年、アメリ

f:id:york8188:20200911161635j:plain

www.youtube.com

 


【あらすじ】

1970年代のアメリカの競馬界で、
数々の伝説的な記録を打ち立てた名馬セクレタリアト
そしてこの馬に託された、さまざまな人びとの夢を
実話に基づいて描く伝記映画だ。

ヴァージニア州の競走馬専門ファーム
「メドウ・ステーブル」で、経営者クリスが病に倒れた。
妻に先立たれたショックで心も体も弱った末のことだった。
牧場の経営は以前から赤字続きだったので、
クリスの息子たちは、牧場を売却しようと考え始めるが、
専業主婦となっていた娘ペニー(ダイアン・レイン)だけは、
牧場の売却に強硬に反対。
結局、彼女が父から経営権を引き継いで、
ファームを切り盛りしていくこととなる。
ペニーは経営は素人同然だったのだが、
幼い頃、牧場の仕事を手伝い、馬と触れ合ってきた人だった。
引退寸前の名調教師ルシアン(ジョン・マルコヴィッチ)、
優秀な騎手ロン(オットー・ソーワース)などとの
出会いに恵まれたペニーは、
馬主として牧場経営者として、着々と成長していく。
そんななか、ファームで一頭の仔馬が誕生。
彼こそ、のちに米競馬史上最強とも称されることとなる
名馬「セクレタリアト」なのだった。
・・・



【観ていて楽しい!】

ま~ さすがディズニーの一言というか。
十分におもしろかったのだが、
おもしろい、と言うよりもむしろ、
いつものごとく、「手際が良い」というのが実感に近い。
おおむね、なんか、そつがない。そして、健全なのだw

ペニーのヘアスタイルやファッション、
夫と子どもたちと暮らす家のインテリアなどから、
70年代アメリカのアッパーミドルクラスの暮らしぶりが
伺えて楽しい。
ヒッピームーブメント華やかなりし頃の、
流行・文化も、さりげなく描かれていたと思う。
というのも、ペニーの娘たち(高校生くらいか?)が、
ヒッピーにかぶれて、そういうテイストの服を着たり、
政治劇をやったり、反戦デモに出かけたりするのだ。
とはいえこの子たちは、普段からペニーが目を光らせて、
しっかりしつけている娘たちであり、
なんたってそこそこ良いとこのお嬢さんなので、
そこまでガッツリとは、ヒッピーに傾倒しないのだが(笑)
さすがはディズニーというか、
そのへん加減をわきまえているよな、と思った。

 

【ペニーと夫の関係に、時代感がほのみえる】

時代感と言えば、ペニーとその夫の関係とかも、
けっこうその意味ではいろいろうまかった点だ。
ペニーの夫は弁護士で、それなりに忙しい人物。
そんななか、妻が実家の牧場を継ぐと言い出し、
レースやら、牧場の事務作業やらで、
月の半分も家を空けるようになってしまった。
夫としては、正直言っておもしろくない。
ペニーがいないので家事は滞り、家は散らかり、
(夫が言うには)母親が良く見ていないせいで、
娘たちが「反体制運動」にかぶれてしまった。
夫は牧場に滞在中の妻に電話をかけて、
「ハニー、帰ってきておくれ」と懇願する。

ここまでのお膳立て的な描写、つまり
ペニーの二重生活が夫婦関係に影響を及ぼしていく
過程の描写が上手だったせいなのか、
わたしの耳にはこの「ハニー、帰ってきておくれ」が
「家事をやってくれ。子どもを大人しくさせてくれ」
にしか聞こえなかった。
夫は、ペニーの気丈な性格を愛しているらしかったし、
「男は仕事、女は家で家事・育児」みたいなことを
妻に押し付けているつもりは毛頭ない様子だったのだが・・・。

旧式の規範意識を(無自覚的に)強く内面化している夫と、
それを(無自覚的に)ブレイクスルーしつつある妻を描くことで
逆に「そういう時代だった」感を良く出していたように思う。

ただ、
(作り手としては全方位に気を遣った結果なんだろうが)
夫婦のすれ違いは、すれ違いのままにしておいても良かったのに、
結局、終盤で、妙~に夫が物分かりの良い感じになる展開を、
入れてきていたのが「ちょっとなあ」って感じだった。
具体的に言うと、
ペニーと夫は、離婚することとなる。
夫が、ペニーの二重生活をどうしても理解しきれなかったのだ。
だが、「名馬セクレタリアトを輩出したファーム」として
メドウステーブルの経営が盛り返されたことにより、
一転、夫はペニーの頑張りを全面的に認める姿勢を見せる。
「君を信じることができなかった僕が悪かった」
みたいなことを妻に告げるシーンがあった。

個人的には、こういう展開がなかったとしても
別に良かったのにな、と思う。
「わからないものはわからない」
「一番認めて欲しい人に認めてもらえないこともある」
「愛情だけでは問題を乗り越えられない場合もある」
「得るものがあれば失うものもある」
・・・そんなビターな現実を残してくれても
別にかまわなかったのだが。

まあ、けど、ディズニーだからな・・・(笑)

実際のペニー・チェネリーさんは、
どうだったんだろうな・・・
本当に夫と和解したのかね。
というか、実際に夫がいたのかね。
そこから創作だとするといろいろ話が変わってくるね。



【圧巻の『1973ベルモントステークス』】

クライマックスは文句なしの素晴らしさ。
競走馬セクレタリアトは、1973年に、
アメリカクラシック三冠」、すなわち
ケンタッキーダービー
プリークネスステークス
そしてベルモントステークスの3つのレースを
制覇したことで有名な馬だそうなのだが、
(この他にも、多数の記録を保持しているそうだ)
映画のクライマックスは、このうち
ベルモントステークスの勝利にフォーカスしていた。
このレースの場面、圧倒的としか言いようがなかった。
2着の馬と30馬身以上の差をつけて勝ちぬけるさまを、
相当な長尺で、ドラマチックに描いてみせてくれる。

この時のセクレタリアトは、
何と言うか・・・ランナーズハイとでも言うのかね?
走ることが、本当に気持ち良さそうだった。
「見て見て! 僕、速いでしょ! カッコイイでしょ!」
もし人語を話すならそんな風に言っていたんじゃないか。
誇らしそうだった。うれしそうだった。

それにしても不思議でしょうがないんだけど、
なんでまた、30馬身も違っちゃうんだろうか!!!
生きものだからそれぞれに個性、キャラはあるのだろうが、
おそらくみんな似たようなメソッドに則って訓練を受け、
似たような食餌を与えられているはずの馬たちが、
同じ条件のレースに出て、よーいどんで走るのに、
なんで一頭だけあんなに抜きん出る展開が!!!?
馬にも
「うわっ、今日はあんな速いやつがいるよ!
 なんか、走るのバカらしくなっちゃった、
 どうせ負けるもん、もうやーめた」
みたいな心理があるんだろうか・・・
それで他の馬がみんな途中であきらめちゃって、
そのせいでセクレタリアトの独壇場となったんだろうか?
奇跡としか思えなかった、あの勝ち方。
スゴかった~・・・



【まとめ】

「そこまで気を遣わなくても良いのにね」的な
部分が、ほんのちょっと、なくもなかったが、
基本的にはこの通り、
最高に気持ちの良いクライマックスが用意され、
人びとの心のドラマもこまやかに描かれ、
ファッションとか眼にも楽しませてくれる、
「ディズニー平常運転」的な良作だった。

日本では劇場公開されず、DVD・ブルーレイ販売に
とどまったそうだ。
これだけの良作なのにもったいないと思うけど、
多分「競走馬の種付け権の売買」とか
まあまあ生々しいエピソードが
割としっかり入ってくる所とかが
もしかしたら引っかかったのかもしれない。
と、思ったりする。
種付け権てなあに、とかチビッコに聞かれたら
どう説明すれば良いかわからないだろうし
そんなめんどくさい映画をかけてくれるなと
言う人もいるのかもしれない。

馬が活躍する映画がストライクゾーンのわたしとしては
十分に楽しく観られた映画だった。
子どもたちも、もちろん、楽しめる作品だと思う。
ぜひどなたも一度DVDなどで観てみていただきたい。